。め[#「め」に傍点]組はつかつかと二足三足、
「おやおやおや、」
 調子はずれな声を放って、手を拡げてぼうとなる。
「どうしたの。」
「可訝《おか》しいぜ。」
 と急に威勢よく引返《ひっかえ》して、
「あれが、今のが、その、河野ッてえのの母親《おふくろ》かね、静岡だって、故郷《くに》あ、」
「ああ。」
「家《うち》は医師《いしゃ》じゃねえかしらん。はてな。」
「どうした、め[#「め」に傍点]組。」
 とむぞうさに台所へ現われた、二十七八のこざっぱりしたのは主税である。
「へへへへへ、」
 満面に笑《えみ》を含んだ、め[#「め」に傍点]組は蓮葉《はすっぱ》帽子の中から、夕映《ゆうやけ》のような顔色《がんしょく》。
「お早うござい。」
「何が早いものか。もう午飯《おひる》だろう、何だ御馳走は、」
 と覗込《のぞきこ》んで、
「ははあ、鯛《てえ》だな。」
「鯛《たい》とおっしゃいよ、見ッともない。」
 とお蔦が笑う。
「他の魚屋の商うのは鯛《たい》さ、め[#「め」に傍点]組のに限っちゃ鯛《てえ》よ、なあ、めい公。」
「違えねえ。」
「だって、貴郎《あなた》は柄にないわ、主公様《だんなさま》
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