に焦茶の肩掛《ショオル》をしたのは、今日あたりの陽気にはいささかお荷物だろうと思われるが、これも近頃は身躾《みだしなみ》の一ツで、貴婦人《あなた》方は、菖蒲《あやめ》が過ぎても遊ばさるる。
直ぐに御歩行《おはこび》かと思うと、まだそれから両手へ手袋を嵌《は》めたが、念入りに片手ずつ手首へぐっと扱《しご》いた時、襦袢《じゅばん》の裏の紅いのがチラリと翻《かえ》る。
年紀《とし》のほどを心づもりに知っため[#「め」に傍点]組は、そのちらちらを一目見ると、や、火の粉が飛んだように、へッと頸《うなじ》を窘《すく》めた処へ、
「まだ、花道かい?」
とお蔦が低声《こごえ》。
「附際《つけぎわ》々々、」
ともう一息め[#「め」に傍点]組の首を縮《すく》める時、先方《さき》は格子戸に立かけた蝙蝠傘《こうもりがさ》を手に取って、またぞろ会釈がある。
「思入れ沢山《だくさん》だ。いよう!」
おっとその口を塞いだ。声はもとより聞えまいが、こなたに人の居るは知れたろう。
振返って、額の広い、鼻筋の通った顔で、屹《きっ》と見越した、目が光って、そのまま悠々と路地を町へ。――勿論勝手口は通らぬのである
前へ
次へ
全428ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング