リと庭下駄に音を立てたが、枝折戸のまだ開《あ》かぬほど、主税は座をずらして、障子の陰になって、忙《せわし》く巻莨《まきたばこ》を吸うのであった。
 二時《ふたとき》ばかり過ぎてから、主税が柏家の枝折戸を出たのは、やがて一時に近かったろう。その時は姉さんはじめ、綱次ともう一人のその民子と云う、牡丹《ぼたん》の花のような若いのも、一所に三人で路地の角まで。
「お互に辛抱するのよう。」と酒気《さかけ》のある派手な声で、主税を送ったのは綱次であった。ト同時に渠《かれ》は姉さんと、手をしっかりと取り合った。
 時に、寂《ひっそ》りした横町の、とある軒燈籠の白い明《あかり》と、板塀の黒い蔭とに挟《はさま》って、平《ひらた》くなっていた、頬被《ほおかむり》をした伝坊が、一人、後先を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》して、密《そっ》と出て、五六歩行過ぎた、早瀬の背後《うしろ》へ、……抜足で急々《つかつか》。
「もし、」
「…………」
「先刻《さっき》アどうも。よく助けて下すったねえ。」
 と頬かむりを取った顔は……礼之進に捕まった、電車の中の、その半纏着《はんてんぎ》。


    
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