で、借金の方をつけて、夜遁《よに》げをするようにして落籍《ひい》たんですもの。
堅気に世帯が持てさえすれば、その内には、世間でも、商売したのは忘れましょうから、早瀬さんの御身分に障るようなこともござんすまい。もうこの節じゃ、洗濯ものも出来るし、単衣《ひとえもの》ぐらい縫えますって、この間も夜|晩《おそ》く私に逢いに来たんですがね。」
と婀娜《あだ》な涙声になって、
「羽織が無いから日中は出られない、と拗《す》ねたように云うのがねえ、どんなに嬉しそうだったでしょう。それに土地《ところ》馴れないのに、臆病《おくびょう》な妓ですから、早瀬さんがこうやって留守にしていなさいます、今頃は、どんなに心細がって、戸に附着《くッつ》いて、土間に立って、帰りを待っているか知れません、私あそれを思うと……」
と空色の、瞼《まぶた》を染めて、浅く圧《おさ》えた襦袢《じゅばん》の袖口。月に露添う顔を見て、主税もはらはらと落涙する。
「世迷言《よまいごと》を言うなよ。」
と膠《にべ》もなく、虞氏《ぐし》が涙《なんだ》を斥《しりぞ》けて、
「早瀬どうだ、分れるか。」
「行処《ゆきどこ》もございません、仕様
前へ
次へ
全428ページ中148ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング