ん》の腰を落して、溝板を見当に指《ゆびさ》しながら、ひしゃげた帽子をくるりと廻わして、
「変ってますね。」
「見せようか。」
「是非お目に懸《かか》りてえね。」
「お待ちよ、」
 と目笊は流《ながし》へ。お蔦は立直って腰障子へ手をかけたが、溝《どぶ》の上に背伸をして、今度は気構えて勿体らしく酸漿《ほおずき》をクウと鳴らすと、言合せたようにコロコロコロ。
「ね、可愛いだろう。」
 カタカタカタ!
「蛙《けえろ》だ、蛙だ。はははは、こいつア可い。なるほど蔦ちゃんの情人かも知れねえ。」
「朧月夜《おぼろづきよ》の色なんだよ。」
 得意らしく済ました顔は、柳に対して花やかである。
「畜生め、拝んでやれ。」
 と好事《ものずき》に蹲込《しゃがみこ》んで、溝板を取ろうとする、め[#「め」に傍点]組は手品の玉手箱の蓋《ふた》を開ける手つきなり。
「お止しよ、遁《に》げるから、」
 と言う処へ、しとやかに、階子段《はしごだん》を下りる音。トタンに井戸端で、ざあと鳴ったは、柳の枝に風ならず、長閑《のどか》に釣瓶《つるべ》を覆《かえ》したのである。


     見知越

       五

 続いてドン
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