説《うわさ》を、耳を澄まして聞き取りながら、太《いた》く憂わしげな面色《おももち》で。
 実際|鬱込《ふさぎこ》んでいるのはなぜか。
 忘れてはならぬ、差向いに酒井先生が、何となく、主税を睨《にら》むがごとくにしていることを。

       三十五

 鬱ぐも道理《ことわり》、そうして電車の動くままに身を任せてはいるものの、主税は果してどこへ連れらるるのか、雲に乗せられたような心持がするのである。
 もっとも、薬師の縁日で一所になって、水道橋から外濠線《そとぼりせん》に乗った時は、仰せに因って飯田町なる、自分の住居《すまい》へ供をして行ったのであるが、元来その夜は、露店の一喝と言い、途中の容子と言い、酒井の調子が凜《りん》として厳しくって、かねて恩威並び行わるる師の君の、その恩に預かれそうではなく、罰利生《ばちりしょう》ある親分の、その罰の方が行われそうな形勢は、言わずともの事であったから、電車でも片隅へ蹙《すく》んで、僥倖《さいわい》そこでも乗客《のりて》が込んだ、人蔭になって、眩《まばゆ》い大目玉の光から、顔を躱《か》わして免《まぬか》れていたは可いが、さて、神楽坂で下りて、見附
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