会の軍用金。諸処から取集めた百有余円を、馴染《なじみ》の会席へ支払いの用があって、夜、モオニングを着て、さて電燈の明《あかる》い電車に乗った。
(アバ大人ですか、ハハハ今日の午後《ひるすぎ》。)と酒井先生方の書生が主税に告げたのと、案ずるに同日であるから、その編上靴は、一日に市中のどのくらいに足跡を印するか料られぬ。御苦労千万と謂わねばならぬ。
 先哲曰く、時は黄金である。そんな隙潰《ひまつぶ》しをしないでも、交際会の会費なら、その場で請取って直ぐに払いを済したら好さそうなものだが、一先ず手許へ引取って、更《あらた》めて夫子自身《ふうしみずから》を労するのは? 知らずや、この勘定の時は、席料なしに、そこの何とか云う姉さんに、茶の給仕をさせて無銭《ただ》で手を握るのだ、と云ったものがある。世には演劇《しばい》の見物の幹事をして、それを縁に、俳優《やくしゃ》と接吻《キス》する貴婦人もあると云うから。
 もっともこれは、嘘であろう。が、会費を衣兜《かくし》にして、電車に乗ったのは事実である。
「ええ、込合いますから御注意を願います。」
 礼之進は提革《さげかわ》に掴《つかま》りながら、人と、
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