お》いても夜が明けたように勇み立って、
「じゃ、あのこちらから……角の電車へ、」と自分は一足|引返《ひっかえ》したが、慌ててまた先へ出て、
「お車を申しましょうか。」
 とそわそわする。
「水道橋まで歩行くが可い。ああ、酔醒《えいざ》めだ。」と、衣紋《えもん》を揺《ゆす》って、ぐっと袖口へ突込んだ、引緊《ひきし》めた腕組になったと思うと、林檎《りんご》の綺麗な、芭蕉実《バナナ》の芬《ふん》と薫る、燈《あかり》の真蒼《まっさお》な、明《あかる》い水菓子屋の角を曲って、猶予《ためら》わず衝《つ》と横町の暗がりへ入った。
 下宿屋の瓦斯《がす》は遠し、顔が見えないからいくらか物が云いよくなって、
「奥さんが、お風邪|気《け》でいらっしゃいますそうで、不可《いけ》ませんでございます。」
「逢ったか。」
「いえ、すやすやお寐《やす》みだと承りましたから、御遠慮申しました。」
「妙は居たかい。」
「四谷へ縁附《かたづ》いております、先《せん》のお光《みつ》をお連れなさいまして、縁日へ。」
「そうか、娘《こども》が出歩行《である》くようじゃ、大した御容態でもなしさ。」
 と少し言《ことば》が和らいで
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