工である。
万亭応賀の作、豊国|画《えがく》。錦重堂板の草双紙、――その頃江戸で出版して、文庫蔵が建ったと伝うるまで世に行われた、釈迦八相倭文庫《しゃかはっそうやまとぶんこ》の挿画《さしえ》のうち、摩耶夫人の御《おん》ありさまを、絵のまま羽二重と、友染と、綾《あや》、錦、また珊瑚《さんご》をさえ鏤《ちりば》めて肉置の押絵にした。……
浄飯王《じょうぼんおう》が狩の道にて――天竺《てんじく》、天臂城《てんぴじょう》なる豪貴の長者、善覚の妹姫が、姉君|矯曇弥《きょうどんみ》とともに、はじめて見《まみ》ゆる処より、優陀夷《うだい》が結納の使者に立つ処、のちに、矯曇弥が嫉妬《しっと》の処。やがて夫人が、一度《ひとたび》、幻に未生《みしょう》のうない子を、病中のいためる御胸《おんむね》に、抱《いだ》きしめたまう姿は、見る目にも痛ましい。その肩にたれつつ、みどり児の頸《うなじ》を蔽《おお》う優しき黒髪は、いかなる女子のか、活髪《いきがみ》をそのままに植えてある。……
われら町人の爺媼《じいばば》の風説《うわさ》であろうが、矯曇弥の呪詛《のろい》の押絵は、城中の奥のうち、御台、正室ではなく、か
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