と岩に、土橋が架《か》かりまして、向うに槐《えんじゅ》の大きいのが枯れて立ちます。それが危なかしく、水で揺れるように月影に見えました時、ジイと、私《てまい》の持ちました提灯《ちょうちん》の蝋燭《ろうそく》が煮えまして、ぼんやり灯《ひ》を引きます。(暗くなると、巴《ともえ》が一つになって、人魂《ひとだま》の黒いのが歩行《ある》くようね。)お艶様の言葉に――私《てまい》、はッとして覗《のぞ》きますと、不注意にも、何にも、お綺麗《きれい》さに、そわつきましたか、ともしかけが乏しくなって、かえの蝋燭が入れてございません。――おつき申してはおります、月夜だし、足許《あしもと》に差支《さしつか》えはございませんようなものの、当館の紋の提灯は、ちょっと土地では幅が利きます。あなたのおためにと思いまして、道はまだ半町足らず、つい一っ走りで、駈《か》け戻りました。これが間違いでございました。」
声も、言《ことば》も、しばらく途絶えた。
「裏土塀《うらどべい》から台所口へ、……まだ入りませんさきに、ドーンと天狗星《てんぐぼし》の落ちたような音がしました。ドーンと谺《こだま》を返しました。鉄砲でございます
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