らって暮らしていなさるところへ、思い余って、細君が訪ねたのでございます。」
(お艶さん、私《わたし》はそう存じます。私が、貴女《あなた》ほどお美しければ、「こんな女房がついています。何の夫《やど》が、木曾街道《きそかいどう》の女なんぞに。」と姦通《まおとこ》呼ばわりをするその婆《ばばあ》に、そう言ってやるのが一番早分りがすると思います。)(ええ、何よりですともさ。それよりか、なおその上に、「お妾《めかけ》でさえこのくらいだ。」と言って私《わたし》を見せてやります方が、上になお奥さんという、奥行があってようございます。――「奥さんのほかに、私ほどのいろがついています。田舎《いなか》で意地ぎたなをするもんですか。」婆《ばばあ》にそう言ってやりましょうよ。そのお嫁さんのためにも。)――

「――あとで、お艶様の、したためもの、かきおきなどに、この様子が見えることに、何ともどうも、つい立ち至ったのでございまして。……これでございますから、何の木曾の山猿《やまざる》なんか。しかし、念のために土地の女の風俗を見ようと、山王様|御参詣《ごさんけい》は、その下心だったかとも存じられます。……ところを、
前へ 次へ
全66ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング