たき起こして廻って、石松が鉄砲を向けたままの、そのありさまをさらしました。――夜のあけ方には、派出所の巡査《おまわり》、檀那寺《だんなでら》の和尚《おしょう》まで立ち会わせるという狂い方でございまして。学士先生の若夫人と色男の画師さんは、こうなると、緋鹿子《ひがのこ》の扱帯《しごき》も藁《わら》すべで、彩色《さいしき》をした海鼠《なまこ》のように、雪にしらけて、ぐったりとなったのでございます。
 男はとにかく、嫁はほんとうに、うしろ手に縛《くく》りあげると、細引を持ち出すのを、巡査《おまわり》が叱《しか》りましたが、叱られるとなお吼《たけ》り立って、たちまち、裁判所、村役場、派出所も村会も一所にして、姦通《かんつう》の告訴をすると、のぼせ上がるので、どこへもやらぬ監禁同様という趣で、ひとまず檀那寺まで引き上げることになりましたが、活《い》き証拠《じょうこ》だと言い張って、嫁に衣服《きもの》を着せることを肯《き》きませんので、巡査《おまわり》さんが、雪のかかった外套《がいとう》を掛けまして、何と、しかし、ぞろぞろと村の女|小児《こども》まであとへついて、寺へ参ったのでございますが。」
 
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