に、のそのそと起きて、鉄砲しらべをして、炉端《ろばた》で茶漬《ちゃづけ》を掻《か》っ食らって、手製《てづくり》の猿《さる》の皮の毛頭巾《けずきん》を被《かぶ》った。筵《むしろ》の戸口へ、白髪《しらが》を振り乱して、蕎麦切色《そばきりいろ》の褌《ふんどし》……いやな奴《やつ》で、とき色の禿《は》げたのを不断まきます、尻端折《しりぱしょ》りで、六十九歳の代官婆が、跣足《はだし》で雪の中に突っ立ちました。(内へ怪《ば》けものが出た、来てくれせえ。)と顔色《がんしょく》、手ぶりで喘《あえ》いで言うので。……こんな時鉄砲は強うございますよ、ガチリ、実弾《たま》をこめました。……旧主人の後室様がお跣足でございますから、石松も素跣足。街道を突っ切って韮《にら》、辣薤《らっきょう》、葱畑《ねぶかばたけ》を、さっさっと、化けものを見届けるのじゃ、静かにということで、婆が出て来ました納戸口《なんどぐち》から入って、中土間へ忍んで、指さされるなりに、板戸の節穴から覗《のぞ》きますとな、――何と、六枚折の屏風《びょうぶ》の裡《なか》に、枕《まくら》を並べて、と申すのが、寝てはいなかったそうでございます。若夫人
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