好きで……もちろん、お嫌《いや》な方もたんとございますまいが、あの湯へ二度、お着きになって、すぐと、それに夜分に一度、お入りなすったのでございます――都合で、新館の建出しは見合わせておりますが、温泉ごのみに石で畳《たた》みました風呂は、自慢でございまして、旧の二階三階のお客様にも、ちと遠うございますけれども、お入りを願っておりましたところが――実はその、時々、不思議なことがありますので、このお座敷も同様にしばらく使わずにおきましたのを、旦那のような方に試みていただけば、おのずと変なこともなくなりましょうと、相談をいたしまして、申すもいかがでございますが、今日《こんにち》久しぶりで、湧《わ》かしも使いもいたしましたような次第《わけ》なのでございます。
ところで、お艶様、その御婦人でございますが、日のうち一風呂お浴びになりますと、(鎮守様のお宮は、)と聞いて、お参詣《まいり》なさいました。贄川街道《にえがわかいどう》よりの丘の上にございます。――山王様のお社《やしろ》で、むかし人身|御供《ごくう》があがったなどと申し伝えてございます。森々《しんしん》と、もの寂しいお社で。……村社はほかに
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