ぎょッとするまで気がついたのは、その点れて来る提灯を、座敷へ振り返らずに、逆に窓から庭の方に乗り出しつつ見ていることであった。
 トタンに消えた。――頭からゾッとして、首筋を硬《こわ》く振り向くと、座敷に、白鷺かと思う女の後ろ姿の頸脚《えりあし》がスッと白い。
 違《ちが》い棚《だな》の傍《わき》に、十畳のその辰巳《たつみ》に据《す》えた、姿見に向かった、うしろ姿である。……湯気に山茶花《さざんか》の悄《しお》れたかと思う、濡《ぬ》れたように、しっとりと身についた藍鼠《あいねずみ》の縞小紋《しまこもん》に、朱鷺色《ときいろ》と白のいち松のくっきりした伊達巻《だてまき》で乳の下の縊《くび》れるばかり、消えそうな弱腰に、裾模様《すそもよう》が軽《かろ》く靡《なび》いて、片膝《かたひざ》をやや浮かした、褄《つま》を友染《ゆうぜん》がほんのり溢《こぼ》れる。露の垂《た》りそうな円髷《まるまげ》に、桔梗色《ききょういろ》の手絡《てがら》が青白い。浅葱《あさぎ》の長襦袢《ながじゅばん》の裏が媚《なまめ》かしく搦《から》んだ白い手で、刷毛《はけ》を優しく使いながら、姿見を少しこごみなりに覗くようにし
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