走っていた。
「馬鹿にしやがる。」
不気味より、凄《すご》いより、なぶられたような、反感が起こって、炬燵《こたつ》へ仰向けにひっくり返った。
しばらくして、境が、飛び上がるように起き直ったのは、すぐ窓の外に、ざぶり、ばちゃばちゃばちゃ、ばちゃ、ちゃッと、けたたましく池の水の掻《か》き攪《みだ》さるる音を聞いたからであった。
「何だろう。」
ばちゃばちゃばちゃ、ちゃッ。
そこへ、ごそごそと池を廻って響いて来た。人の来るのは、なぜか料理番だろうと思ったのは、この池の魚《うお》を愛惜すると、聞いて知ったためである。……
「何だい、どうしたんです。」
雨戸を開けて、一面の雪の色のやや薄い処《ところ》に声を掛けた。その池も白いまで水は少ないのであった。
三
「どっちです、白鷺《しらさぎ》かね、五位鷺《ごいさぎ》かね。」
「ええ――どっちもでございますな。両方だろうと思うんでございますが。」
料理番の伊作は来て、窓下の戸際《とぎわ》に、がッしり腕組をして、うしろ向きに立って言った。
「むこうの山口の大林から下りて来るんでございます。」
言《ことば》の中にも顕《あら》わ
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