土間に敷いた、そのあゆみ板を渡って行く。土間のなかばで、そのおじやのかたまりのような四人の形が暗くなったのは、トタンに、一つ二つ電燈がスッと息を引くように赤くなって、橋がかりのも洗面所のも一齊《いっせい》にパッと消えたのである。
 と胸を吐《つ》くと、さらさらさらさらと三筋に……こう順に流れて、洗面所を打つ水の下に、さっきの提灯《ちょうちん》が朦朧《もうろう》と、半ば暗く、巴《ともえ》を一つ照らして、墨でかいた炎か、鯰《なまず》の跳《は》ねたか、と思う形に点《とも》れていた。
 いまにも電燈が点《つ》くだろう。湯殿口へ、これを持って入る気で、境がこごみざまに手を掛けようとすると、提灯がフッと消えて見えなくなった。
 消えたのではない。やっぱりこれが以前のごとく、湯殿の戸口に点いていた。これはおのずから雫《しずく》して、下の板敷の濡《ぬ》れたのに、目の加減で、向うから影が映《さ》したものであろう。はじめから、提灯がここにあった次第《わけ》ではない。境は、斜めに影の宿った水中の月を手に取ろうとしたと同じである。
 爪《つま》さぐりに、例の上がり場へ……で、念のために戸口に寄ると、息が絶えそ
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