を抜けて、一度ちょっと田畝道《たんぼみち》を抜けましたがね、穀蔵《こくぐら》、もの置蔵などの並んだ処を通って、昔の屋敷町といったのへ入って、それから榎《えのき》の宮八幡宮――この境内が、ほとんど水源と申して宜《よろ》しい、白雪のとけて湧《わ》く処、と居士が言います。……榎は榎、大楠《おおくす》、老樫《ふるかし》、森々《しんしん》と暗く聳《そび》えて、瑠璃《るり》、瑪瑙《めのう》の盤、また薬研《やげん》が幾つも並んだように、蟠《わだかま》った樹の根の脈々、巌《いわ》の底、青い小石一つの、その下からも、むくむくとも噴出さず、ちろちろちろちろと銀の鈴の舞うように湧いています。不躾《ぶしつけ》ですが、御手洗《みたらし》で清めた指で触って見ました。冷い事、氷のようです。湧いて響くのが一粒ずつ、掌《てのひら》に玉を拾うそうに思われましたよ。
あとへ引返して、すぐ宮前の通《とおり》から、小橋を一つ、そこも水が走っている、門ばかり、家は形もない――潜門《くぐりもん》を押して入ると――植木屋らしいのが三四人、土をほって、運んでいました。」
――別荘の売りものを、料理屋が建直すのだったそうである。
「
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