っこ》うどと称《とな》えて形も似ている、仙家の美膳《びぜん》、秋はまた自然薯《じねんじょ》、いずれも今時の若がえり法などは大俗で及びも着かぬ。早い話が牡丹《ぼたん》の花片《はなびら》のひたしもの、芍薬《しゃくやく》の酢味噌あえ。――はあはあと、私が感に入って驚くのを、おかしがって、何、牡丹のひたしものといった処で、一輪ずつ枝を折る殺風景には及ばない、いけ花の散ったのを集めても結構よろしい。しかし、贅沢といえば、まことに蘭飯《らんぱん》と称して、蘭の花をたき込んだ飯がある、禅家の鳳膸《ほうずい》、これは、不老の薬と申しても可《い》い。――御主人――これなら無事でしょう。まずこの辺までは芥川さんに話しても、白い頬を窪まし、口許《くちもと》に手を当てて頷《うなず》いていましょうがね、……あとが少しむずかしい。――
 私はその時は、はじめから、もと三島へ下りて、一汽車だけ、いつも電車でばかり見て通る、あの、何とも言えない路傍《みちばた》の綺麗な流《ながれ》を、もっとずッと奥まで見たいと思っていましたから。」
「すなわち、化粧の水ですな。」
「お待ちなさい。そんな流《ながれ》の末じゃあ決してない
前へ 次へ
全33ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング