かれては穏かでない。」
「教ゆ。授く。」
「……教ゆ。授く。気になる、気になる。」
「施す。」
「……施す、妙だ。いや、待った。待った。」
 と掌《てのひら》で押えて留めるとともに、今度は、ぐっと深く目を瞑《つむ》って、
「学海施一雪紅楼夢――や不可《いけね》え。あの髯《ひげ》が白い頸脚《えりあし》へ触るようだ。女教員渚の方は閑話休題として、前刻《さっき》入って行った氷月の小座敷に天狗《てんぐ》の面でも掛《かか》っていやしないか、悪く捻《ひね》って払子《ほっす》なぞが。大変だ、胸がどきどきして来たぞ。」
 弦光はわざとらしく胸をわななかせたと思うと、その胸を反《そ》らし、畳後《たたみうしろ》へ両の手をどさんと支《つ》いた。
「安心するがいい。誰が紅楼夢だときめたよ、一人で慌てているんじゃないか。一雪の習ってるのは水滸伝《すいこでん》だとさ、白文でね。」
「何、水滸伝。はてな、妙齢の姿色、忽然《こつねん》として剣侠《けんきょう》下地だ、うっかりしちゃいられない。」
 と面《おもて》を正しく、口元を緊《し》めて坐り直し、
「寝ているうちに、匕首《ひしゅ》が飛んで首を攫《さら》うんだ、恐るべ
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