をつく。
「へい、へい、遅《おそな》わりましてござります。」
 爪の黒ずんだ婆さんの、皺頸《しわくび》へ垢手拭《あかてぬぐい》を巻いたのが、乾《から》びた葡萄豆《ぶどうまめ》を、小皿にして、兀《は》げた汁椀を二つ添えて、盆を、ぬい、と突出した。片手に、旦那様|穿換《はきか》えの古足袋を握っている。
「ああ、これだ。」と、喟然として歎じて、こんどは、畳へ手をついた。
 この傭《やとい》にさえ、弦光法師は配慮した。……俥賃には足りなくても、安肉四半斤……二十匁以上、三十匁以内だけの料はある。竹の皮包を土産らしく提げて帰れば、廓《さと》から空腹《すきばら》だ、とは思うまい。――内証だが、ここで糸七は実は焼芋を主張した。粮《かて》と温石《おんじゃく》と凍餓共に救う、万全の策だったのである、けれども、いやしくも文学者たるべきものの、紅玉《ルビー》、緑宝玉《エメラルド》、宝玉を秘め置くべき胸から、黄色に焦げた香《におい》を放って、手を懐中《ふところ》に暖めたとあっては、蕎麦屋《そばや》の、もり二杯の小婢の、ぼろ前垂《まえだれ》の下に手首を突込むのと軌を一にする、と云って斥《しりぞ》けた。良策の用い
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