ゅりん》の装《よそおい》であった。
「あの、どうも、勿体なくて、つけつけ申しますのも、いかがですけれど、小石川台町にお住居《すまい》のございます、上杉様、とおっしゃいます。」
「ええ、映山先生。」
お嬢さんの珊瑚を鏤《ちりば》めた蒔絵《まきえ》の櫛がうつむいた。
八
「どういたしまして。お嬢様、お心易さを頂くなぞとは、失礼で、おもいもよりませんのでございますけれど。」
この紙表紙の筆について、お嬢さんが、貸本屋として、先生と知己《ちかづき》のいわれを聞いたことはいうまでもなかろう。
「実は、あの、上杉先生の、多勢のお弟子さん方の。……あなたは、小説がおすきでいらっしゃいますのを、お見受け申しましたから……ご存じかも知れませんけれど、そのお一人の、糸七さんでございますが。」
「ええ。」
「実は――私ども、うまれが同じ国でございましてね、御懇意を願っておりますものですから。」
「ちっとも私……まあ、そうですか。」
「その御縁で、ついこの間、糸七さんと、もう一人おつれになって、神保町辺へ用達《ようたし》においでなさいましたお帰りがけ、ご散歩かたがた、「どうだい、新店は立
前へ
次へ
全151ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング