に巻戻しながら、指を添え、表紙を開くと、薄、茅原、花野を照らす月ながら、さっと、むら雨に濡色の、二人が水の滴《た》りそうな、光氏《みつうじ》と、黄昏《たそがれ》と、玉なす桔梗《ききょう》、黒髪の女郎花《おみなえし》の、簾《みす》で抱合う、道行《みちゆき》姿の極彩色。
「永洗《えいせん》ですね、この口絵の綺麗だこと。」
「ええ、絵も評判でございます。……中坂の、そのお娘ごもおっしゃいました。その小説の『たそがれ』は、現代《いま》のおいらんなんだそうですけれど、作者だか、絵師《えかき》さんだかの工夫ですか、意匠《こころつもり》で、むかし風に誂《あつら》えたんでしょう、とおっしゃって、それに、雑誌にはいろいろの作が出ておりますけれど、一番はなへのっておりますから、そうやって一冊本の口絵のように……だそうなんでございますッて。」
「結綿《ゆいわた》の、御容子《ごようす》のいい。」
 口絵から目を放さず、
「その方、いろいろな事を、ようごぞんじ……羨しいこと。表紙を別につけて、こうなされば、単行――一冊ものもおんなじようで、作者だって、どんなにか嬉しいでしょうよ。」
 その方、という、この方、も
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