が、化けて歌でも詠みはしないか、赤い短冊がついていて、しばしば雨風を喰《くら》ったと見え、摺切《すりき》れ加減に、小さくなったのが、フトこっち向に、舌を出した形に見える。……ふざけて、とぼけて、その癖何だか小憎らしい。
立寄る客なく、通りも途絶えた所在なさに、何心なく、じっと見た若い女房が、遠く向うから、その舌で、頬を触るように思われたので、むずむずして、顔を振ると、短冊が軽く揺れる。頤《あご》で突きやると、向うへ動き、襟を引くと、ふわふわと襟へついて来る。……
「……まあ……」
二三度やって見ると、どうも、顔の動くとおりに動く。
頬のあたりがうそ痒《がゆ》い……女房は擽《くすぐった》くなったのである。
袖で頬をこすって、
「いやね。」
ツイと横を向きながら、おかしく、流盻《ながしめ》が密《そっ》と行《ゆ》くと、今度は、短冊の方から顎《あご》でしゃくる。顎ではない、舌である。細く長いその舌である。
いかに、短冊としては、詩歌に俳句に、繍口錦心《しゅうこうきんしん》の節を持すべきが、かくて、品性を堕落し、威容を失墜したのである。
が、じれったそうな女房は、上気した顔を向け直
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