所にぶらぶら、皀莢《さいかち》の実で風に驚く……端銭《はした》もない、お葬式《とむらい》で無常は感じる、ここが隅田《おおかわ》で、小夜時雨《さよしぐれ》、浅草寺の鐘の声だと、身投げをすべき処だけれど、凡夫|壮《さかん》にして真昼間《まっぴるま》午後一時、風は吹いても日和はよしと……どうしても両国を乗越《のっこ》さないじゃ納まらない。弁持も洲崎に馴染《なじみ》があってね、洲崎の塩竈……松風|空風《からかぜ》遊びという、菓子台一枚で、女人とともに涅槃《ねはん》に入《い》ろう。……その一枚とさえいう処を、台ばかり。……菓子はこれだ、と袂から二人揃って、件《くだん》の塩竈を二包。……こいつには、笹川の剣士、平手造酒《ひらてみき》の片腕より女郎が反《そ》るぜ、痛快! となった処で――端銭もない。
 ほかに工面のしようがないので、お伽堂へ大刀《だんびら》さ。
 三崎町の土手を行ったり来たり、お伽堂の裏手になる。……なまじっか蘆《あし》がばらばらだから、直ぐ汐入《しおいり》の土手が目先にちらついて、気は逸《はや》るが、亭主が危い。……古本|漁《あさ》りに留守の様子は知ってるけれど、鉄壺眼《かなつぼま
前へ 次へ
全151ページ中109ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング