から》んで落ちた、折本らしいものを見た。
「……町は基督《キリスト》教の学校へ行《ゆ》くんですが、お導き申したというお社だし、はじめがこの絵図から起ったのですから、これをしるしにお納め申して、同《おんな》じに願掛《がんかけ》をしてお上げなさいと、あの母がそう申します。……私もその心で、今夜持って参りましたよ。」
与五郎野雪、これを聞くと、拳《こぶし》を握って、舞の構えに、正しく屹《きっ》と膝を立てて、
「むむ、いや、かさねがさね……たといキリシタンバテレンとは云え、お宗旨までは尋常事《ただごと》ではない。この事、その事。新蕎麦に月は射《さ》さぬが、暗《やみ》は、ものじゃ、冥土の女房に逢う思《おもい》。この燈火《あかり》は貴女の導き。やあ、絵図面をお展《ひら》き下され、老人思う所存が出来た!」
と熟《じっ》と※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った、目の冴《さえ》は、勇士が剣《つるぎ》を撓《た》むるがごとく、袖を抱いてすッくと立つ、姿を絞って、じりじりと、絵図の面《おもて》に――捻向《ねじむ》く血相、暗い影が颯《さっ》と射《さ》して、線を描いた紙の上を、フッと抜け出した
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