。与五郎、鬼神相伝の秘術を見しょう。と思うのが汽車の和尚じゃ。この心を見物衆の重石《おもし》に置いて、呼吸《いき》を練り、気を鍛え、やがて、件《くだん》の白蔵主。
 那須野ヶ原の古樹の杭《くい》に腰を掛け、三国伝来の妖狐《ようこ》を放って、殺生石の毒を浴《あび》せ、当番のワキ猟師、大沼善八を折伏《しゃくぶく》して、さて、ここでこそと、横須賀行の和尚の姿を、それ、髣髴《ほうふつ》して、舞台に顕《あらわ》す……しゃ、習《ならい》よ、芸よ、術よとて、胡麻《ごま》の油で揚げすまいた鼠の罠《わな》に狂いかかると、わっと云うのが可笑《おか》しさを囃《はや》すので、小児《こども》は一同、声を上げて哄《どつ》と笑う。華族の後室が抱いてござった狆《ちん》が吠《ほ》えないばかりですわ。
 何と、それ狂言は、おかしいものには作したれども、この釣狐に限っては、人に笑わるべきものでない。
 凄《すご》う、寂しゅう、可恐《おそろ》しげはさてないまでも、不気味でなければなりませぬ。何と!」
 とせき込んで言ったと思うと、野雪老人は、がっくりと下駄を、腰に支《つ》いて、路傍《みちばた》へ膝を立てた。
「さればこそ、先
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