白い下地
泉鏡花

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)側《がわ》に取ろう

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ばらふ[#「ばらふ」に傍点]
−−

 色といえば、恋とか、色情とかいう方面に就いての題目ではあろうが、僕は大に埒外に走って一番これを色彩という側《がわ》に取ろう、そのかわり、一寸仇ッぽい。
 色は兎角《とかく》白が土台になる。これに色々の色彩が施されるのだ。女の顔の色も白くなくッちゃ駄目だ。女の顔は浅黒いのが宜いというけれど、これとて直ちにそれが浅黒いと見えるのでは無く、白い下地が有って、始めて其の浅黒さを見せるのである。
 色の白いのは七難隠すと、昔の人も云った。しかしながら、ただ色が白いというのみで意気の鈍い女の顔は、黄いろく見えるような感がする。悪くすると青黒くさえ見える意気がある。まったく色が白かったら、よし、輪郭は整って居らずとも、大抵は美人に見えるように思う。僕の僻見かも知れぬが。
 同じ緋縮緬の長襦袢を着せても着人《きて》によりて、それが赤黒く見える。紫の羽織を着せても、着人によりて色が引き立たない。青にしろ
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング