せよ、と言はば、すぐに優伎《わざおぎ》の舞台に出て、小町《こまち》も静《しずか》も勤めるのかな。」
 紫玉は巌《いわや》に俯向《うつむ》いた。
「其で通るか、いや、さて、都は気が広い。――われらの手品は何《ど》うぢやらう。」
「えゝ、」
 と仰いで顔を視た時、紫玉はゾツと身に沁《し》みた、腐れた坊主に不思議な恋を知つたのである。
「貴方なら、貴方なら――何故《なぜ》、さすらうておいで遊ばす。」
 坊主は両手で顔を圧《おさ》へた。
「面目《めんぼく》ない、われら、此処《ここ》に、高い貴《とうと》い処《ところ》に恋人がおはしてな、雲《くも》霧《きり》を隔てても、其の御足許《おあしもと》は動かれぬ。呀《や》!」
 と、慌《あわただ》しく身を退《しさ》ると、呆《あき》れ顔してハツと手を拡げて立つた。
 髪黒く、色雪の如く、厳《いつく》しく正しく艶《えん》に気高き貴女《きじょ》の、繕《つくろ》はぬ姿したのが、すらりと入つた。月を頸《うなじ》に掛《か》けつと見えたは、真白《ましろ》な涼傘《ひがさ》であつた。
 膝《ひざ》と胸を立てた紫玉を、ちらりと御覧ずると、白《しろ》やかなる手尖《てさき》を軽く
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