した。紫玉は唯《ただ》引被《ひっかつ》いで打伏《うちふ》した。が、金方《きんかた》は油断せず。弟子たちにも旨《むね》を含めた。で、次場所《つぎばしょ》の興行|恁《か》くては面白かるまいと、やけ酒を煽《あお》つて居たが、酔倒《えいたお》れて、其は寝た。
 料理店の、あの亭主は、心|優《やさし》いもので、起居《たちい》にいたはりつ、慰めつ、で、此も注意はしたらしいが、深更《しんこう》の然《しか》も夏の夜《よ》の戸鎖《とざし》浅ければ、伊達巻《だてまき》の跣足《はだし》で忍んで出る隙《すき》は多かつた。
 生命《いのち》の惜《おし》からぬ身には、操《あやつ》るまでの造作《ぞうさ》も要らぬ。小さな通船《かよいぶね》は、胸の悩みに、身もだえするまゝに揺動《ゆりうご》いて、萎《しお》れつゝ、乱れつゝ、根を絶えた小船の花の面影《おもかげ》は、昼の空とは世をかへて、皓々《こうこう》として雫《しずく》する月の露《つゆ》吸ふ力もない。
「えゝ、口惜しい。」
 乱れがみを※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》りつゝ、手で、砕けよ、とハタと舷《ふなばた》を打つと……時の間《ま》に痩《や》せた指
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