鸚鵡《おうむ》を空に翳《かざ》した。
 紫玉の※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた瞳《め》には、確《たしか》に天際《てんさい》の僻辺《へきへん》に、美女の掌《て》に似た、白山《はくさん》は、白く清く映つたのである。
 毛筋《けすじ》ほどの雲も見えぬ。
 雨乞《あまごい》の雨は、いづれ後刻《ごこく》の事にして、其のまゝ壇を降《くだ》つたらば無事だつたらう。処《ところ》が、遠雷《えんらい》の音でも聞かすか、暗転に成らなければ、舞台に馴《な》れた女優だけに幕が切れない。紫玉は、しかし、目前《まのあたり》鯉魚《りぎょ》の神異《しんい》を見た、怪しき僧の暗示と讖言《しんげん》を信じたのであるから、今にも一片の雲は法衣の袖《そで》のやうに白山の眉《まゆ》に飜《ひるがえ》るであらうと信じて、須叟《しばし》を待つ間《ま》を、法壇を二廻《ふたまわ》り三廻《みまわ》り緋の袴《はかま》して輪に歩行《ある》いた。が、此は鎮守《ちんじゅ》の神巫《みこ》に似て、然《しか》もなんば、と言ふ足どりで、少なからず威厳を損じた。
 群集の思はんほども憚《はばか》られて、腋《わき》の下に衝《つ》と冷《つめ
前へ 次へ
全63ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング