が、
「は、」と、呼吸《いき》をひいて答へた紫玉の、身動《みじろ》ぎに、帯がキと擦れて鳴つたほど、深く身に響いて聞いたのである。
「癩坊主《かったいぼうず》が、ねだり言《ごと》を肯《うけご》うて、千金《せんきん》の釵《かんざし》を棄《す》てられた。其の心操《こころばえ》に感じて、些細《ささい》ながら、礼心《れいごころ》に密《そ》と内証《ないしょう》の事を申す。貴女《あなた》、雨乞《あまごい》をなさるが可《よ》い。――天《てん》の時、地《ち》の利、人《ひと》の和、まさしく時節《じせつ》ぢや。――こゝの大池《おおいけ》の中洲《なかす》の島に、かりの法壇を設けて、雨を祈ると触れてな。……袴《はかま》、練衣《ねりぎぬ》、烏帽子《えぼし》、狩衣《かりぎぬ》、白拍子《しらびょうし》の姿が可《よ》からう。衆人《しゅうじん》めぐり見る中へ、其の姿をあの島の柳の上へ高く顕《あらわ》し、大空に向つて拝《はい》をされい。祭文《さいもん》にも歌にも及ばぬ。天竜《てんりゅう》、雲を遣《や》り、雷《らい》を放ち、雨を漲《みなぎ》らすは、明午《みょうご》を過ぎて申《さる》の上刻《じょうこく》に分毫《ふんごう》も相違
前へ
次へ
全63ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング