折つて、坊主頭を、がく、と俯向《うつむ》けて唄ふので、頸《うなじ》を抽《ぬ》いた転軫《てんじん》に掛《かか》る手つきは、鬼が角《つの》を弾《はじ》くと言はば厳《いか》めしい、寧《むし》ろ黒猫が居て顔を洗ふと言ふのに適する。
[#ここから4字下げ]
――なから舞ひたりしに、御輿《みこし》の嶽《たけ》、愛宕山《あたごやま》の方《かた》より黒雲《くろくも》俄《にわか》に出来《いでき》て、洛中《らくちゅう》にかゝると見えければ、――
[#ここで字下げ終わり]
と唄ふ。……紫玉は腰を折つて地に低く居て、弟子は、其の背後《うしろ》に蹲《しゃが》んだ。
[#ここから4字下げ]
――八大竜王《はちだいりゅうおう》鳴渡《なりわた》りて、稲妻《いなずま》ひらめきしに、諸人《しょにん》目を驚かし、三日の洪水を流し、国土|安穏《あんおん》なりければ、扨《さて》こそ静の舞《まい》に示現ありけるとて、日本一と宣旨《せんじ》を給《たまわ》りけると、承《うけたまわ》り候《そうろう》。――
[#ここで字下げ終わり]
時に唄を留《や》めて黙つた。
「太夫様《たゆうさま》。」
余り尋常《じんじょう》な、ものいひだつた
前へ
次へ
全63ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング