さい。」と言ってみたり。石垣の草蒸《くさいきれ》に、棄ててある瓜の皮が、化けて脚が生えて、むくむくと動出しそうなのに、「あれ。」と飛退《とびの》いたり。取留めのないすさびも、この女の人気なれば、話せば逸話に伝えられよう。
低い山かと見た、樹立《こだち》の繁った高い公園の下へ出ると、坂の上り口に社《やしろ》があった。
宮も大きく、境内も広かった。が、砂浜に鳥居を立てたようで、拝殿の裏崕《うらがけ》には鬱々《うつうつ》たるその公園の森を負いながら、広前《ひろまえ》は一面、真空《まそら》なる太陽に、礫《こいし》の影一つなく、ただ白紙《しらかみ》を敷詰めた光景《ありさま》なのが、日射《ひざし》に、やや黄《きば》んで、渺《びょう》として、どこから散ったか、百日紅の二三点。
……覗くと、静まり返った正面の階《きざはし》の傍《かたわら》に、紅《べに》の手綱、朱の鞍《くら》置いた、つくりものの白の神馬《しんめ》が寂寞《せきばく》として一頭《ひとつ》立つ。横に公園へ上る坂は、見透《みとお》しになっていたから、涼傘のままスッと鳥居から抜けると、紫玉の姿は色のまま鳥居の柱に映って通る。……そこに屋根囲
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