…年紀《とし》は、そうさね、七歳《ななつ》か六歳《むッつ》ぐらいな、色の白い上品な、……男の児にしてはちと綺麗過ぎるから女の児――だとリボンだね。――青いリボン。……幼稚《ちいさ》くたって緋《ひ》と限りもしないわね。では、やっぱり女の児かしら。それにしては麦藁帽子……もっともおさげに結ってれば……だけど、そこまでは気が付かない。……」
大通りは一筋だが、道に迷うのも一興で、そこともなく、裏小路へ紛れ込んで、低い土塀から瓜《うり》、茄子《なす》の畠《はたけ》の覗《のぞ》かれる、荒れ寂れた邸町《やしきまち》を一人で通って、まるっきり人に行合《ゆきあ》わず。白熱した日盛《ひざかり》に、よくも羽が焦げないと思う、白い蝶々の、不意にスッと来て、飜々《ひらひら》と擦違うのを、吃驚《びっくり》した顔をして見送って、そして莞爾《にっこり》……したり……そうした時は象牙骨《ぞうげぼね》の扇でちょっと招いてみたり。……土塀の崩屋根《くずれやね》を仰いで血のような百日紅《さるすべり》の咲満ちた枝を、涼傘《ひがさ》の尖《さき》で擽《くす》ぐる、と堪《たま》らない。とぶるぶるゆさゆさと行《や》るのに、「御免な
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