という、景勝の公園であった。
二
公園の入口に、樹林を背戸に、蓮池《はすいけ》を庭に、柳、藤、桜、山吹など、飛々《とびとび》に名に呼ばれた茶店がある。
紫玉が、いま腰を掛けたのは柳の茶屋というのであった。が、紅《あか》い襷《たすき》で、色白な娘が運んだ、煎茶《せんちゃ》と煙草盆《たばこぼん》を袖に控えて、さまで嗜《たしな》むともない、その、伊達《だて》に持った煙草入を手にした時、――
「……あれは女の児《こ》だったかしら、それとも男の児だったろうかね。」
――と思い出したのはそれである。――
で、華奢造《きゃしゃづく》りの黄金《きん》煙管《ぎせる》で、余り馴《な》れない、ちと覚束《おぼつか》ない手つきして、青磁色の手つきの瀬戸火鉢を探りながら、
「……帽子を……被《かぶ》っていたとすれば、男の児だろうが、青い鉢巻だっけ。……麦藁《むぎわら》に巻いた切《きれ》だったろうか、それともリボンかしら。色は判然《はっきり》覚えているけど、……お待ちよ、――とこうだから。……」
取って着けたような喫《の》み方だから、見ると、ものものしいまでに、打傾いて一口吸って、
「…
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