間に微行するのは、政《まつりごと》を聞く時より、どんなにか得意であろう。落人《おちゅうど》のそれならで、そよと鳴る風鈴も、人は昼寝の夢にさえ、我名を呼んで、讃美し、歎賞する、微妙なる音響、と聞えて、その都度、ハッと隠れ忍んで、微笑《ほほえ》み微笑み通ると思え。
深張《ふかばり》の涼傘《ひがさ》の影ながら、なお面影は透き、色香は仄《ほの》めく……心地すれば、誰《たれ》憚《はばか》るともなく自然《おのず》から俯目《ふしめ》に俯向《うつむ》く。謙譲の褄《つま》はずれは、倨傲《きょごう》の襟より品を備えて、尋常な姿容《すがたかたち》は調って、焼地に焦《い》りつく影も、水で描いたように涼しくも清爽《さわやか》であった。
わずかに畳の縁《へり》ばかりの、日影を選んで辿《たど》るのも、人は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、鯨に乗って人魚が通ると見たであろう。……素足の白いのが、すらすらと黒繻子《くろじゅす》の上を辷《すべ》れば、溝《どぶ》の流《ながれ》も清水の音信《おとずれ》。
で、真先《まっさき》に志したのは、城の櫓《やぐら》と境を接した、三つ二つ、全国に指を屈する
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