何のお怨《うら》みで?……」
と息せくと、眇《めっかち》の、ふやけた目珠《めだま》ぐるみ、片頬を掌《たなそこ》でさし蔽《おお》うて、
「いや、辺境のものは気が狭い。貴方が余り目覚しい人気ゆえに、恥入るか、もの嫉《ねた》みをして、前芸をちょっと遣《や》った。……さて時に承わるが太夫、貴女《あなた》はそれだけの御身分、それだけの芸の力で、人が雨乞をせよ、と言わば、すぐに優伎《わざおぎ》の舞台に出て、小町も静も勤めるのかな。」
紫玉は巌《いわや》に俯向《うつむ》いた。
「それで通るか、いや、さて、都は気が広い。――われらの手品はどうじゃろう。」
「ええ、」
と仰いで顔を視《み》た時、紫玉はゾッと身に沁《し》みた、腐れた坊主に不思議な恋を知ったのである。
「貴方なら、貴方なら――なぜ、さすろうておいで遊ばす。」
坊主は両手で顔を圧《おさ》えた。
「面目ない、われら、ここに、高い貴い処に恋人がおわしてな、雲霧を隔てても、その御足許《おあしもと》は動かれぬ。や!」
と、慌《あわただ》しく身を退《しさ》ると、呆《あき》れ顔してハッと手を拡げて立った。
髪黒く、色雪のごとく、厳《いつく》し
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