から、天女が斜《ななめ》に流れて出ても、群集はこの時くらい驚異の念は起すまい。
烏帽子もともにこの装束は、織ものの模範、美術の表品《ひょうほん》、源平時代の参考として、かつて博覧会にも飾られた、鎌倉殿が秘蔵の、いずれ什物《じゅうもつ》であった。
さて、遺憾ながら、この晴の舞台において、紫玉のために記すべき振事《ふりごと》は更にない。渠《かれ》は学校出の女優である。
が、姿は天より天降《あまくだ》った妙《たえ》に艶《えん》なる乙女のごとく、国を囲める、その赤く黄に爛《ただ》れたる峰岳《みねたけ》を貫いて、高く柳の間に懸《かか》った。
紫玉は恭《うやうや》しく三たび虚空《なかぞら》を拝した。
時に、宮奴《みややっこ》の装《よそおい》した白丁《はくちょう》の下男が一人、露店の飴屋《あめや》が張りそうな、渋の大傘《おおからかさ》を畳んで肩にかついだのが、法壇の根に顕《あらわ》れた。――これは怪《け》しからず、天津乙女の威厳と、場面の神聖を害《そこな》って、どうやら華魁《おいらん》の道中じみたし、雨乞にはちと行過ぎたもののようだった。が、何、降るものと極《きま》れば、雨具の用意をするの
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