……県に成上《なりあがり》の豪族、色好みの男爵で、面構《つらがまえ》も風采《ふうつき》も巨頭公《あたまでっかち》によう似たのが、劇《しばい》興行のはじめから他に手を貸さないで紫玉を贔屓《ひいき》した、既に昨夜《ゆうべ》もある処で一所になる約束があった。その間《ま》の時間を、紫玉は微行したのである。が、思いも掛けない出来事のために、大分の隙入《ひまいり》をしたものの、船に飛んだ鯉は、そのよしを言づけて初穂というのを、氷詰めにして、紫玉から鎌倉殿へ使《つかい》を走らせたほどなのであった。――
車の通ずる処までは、もう自動車が来て待っていて、やがて、相会すると、ある時間までは附添って差支えない女弟子の口から、真先《まっさき》に予言者の不思議が漏れた。
一議に及ばぬ。
その夜《よ》のうちに、池の島へ足代《あじろ》を組んで、朝は早や法壇が調った。無論、略式である。
県社の神官に、故実の詳しいのがあって、神燈を調え、供饌《ぐせん》を捧げた。
島には鎌倉殿の定紋《じょうもん》ついた帷幕《まんまく》を引繞《ひきめぐ》らして、威儀を正した夥多《あまた》の神官が詰めた。紫玉は、さきほどからここに
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