う。衆人めぐり見る中へ、その姿をあの島の柳の上へ高く顕《あらわ》し、大空へ向って拝をされい。祭文《さいもん》にも歌にも及ばぬ。天竜、雲を遣《や》り、雷《らい》を放ち、雨を漲《みなぎ》らすは、明午を過ぎて申《さる》の上刻に分豪《ふんごう》も相違ない。国境の山、赤く、黄に、峰岳《みねたけ》を重ねて爛《ただ》れた奥に、白蓮の花、玉の掌《たなそこ》ほどに白く聳《そび》えたのは、四時《しじ》に雪を頂いて幾万年の白山《はくさん》じゃ。貴女、時を計って、その鸚鵡《おうむ》の釵を抜いて、山の其方《そなた》に向って翳《かざ》すを合図に、雲は竜のごとく湧《わ》いて出よう。――なおその上に、可《よ》いか、名を挙げられい。……」
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――賢人《かしこびと》の釣を垂れしは、
厳陵瀬《げんりょうらい》の河の水。
月影ながらもる夏は、
山田の筧《かけひ》の水とかや。――……
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       十一

 翌日の午後の公園は、炎天の下に雲よりは早く黒くなって人が湧いた。煉瓦《れんが》を羽蟻《はあり》で包んだような凄《すさま》じい群集である。
 かりに、鎌倉殿としておこう。この
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