――有験《うげん》の高僧貴僧百人、神泉苑の池にて、仁王経《にんのうきょう》を講じ奉らば、八大竜王も慈現納受《じげんのうじゅ》たれ給うべし、と申しければ、百人の高僧貴僧を請《しょう》じ、仁王経を講ぜられしかども、その験《しるし》もなかりけり。また或《ある》人申しけるは、容顔美麗なる白拍子《しらびょうし》を、百人めして、――
[#ここで字下げ終わり]
「御坊様。」
 今は疑うべき心も失《う》せて、御坊様、と呼びつつ、紫玉が暗中を透《すか》して、声する方《かた》に、縋《すが》るように寄ると思うと、
「燈《ひ》を消せ。」
 と、蕭《さ》びたが力ある声して言った。
「提灯《ちょうちん》を……」
「は、」と、返事と息を、はッはッとはずませながら、一度|消損《けしそこ》ねて、慌《あわただ》しげに吹消した。玉野の手は震えていた。
[#ここから4字下げ]
――百人の白拍子をして舞わせられしに、九十九人舞いたりしに、その験もなかりけり。静《しずか》一人舞いたりとても、竜神|示現《じげん》あるべきか。内侍所《ないしどころ》に召されて、禄《ろく》おもきものにて候にと申したりければ、とても人数《ひとかず》な
前へ 次へ
全54ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング