読者を怯《おびやか》しては不可《いけな》い。滝壷へ投沈めた同じ白金《プラチナ》の釵が、その日のうちに再び紫玉の黒髪に戻った仔細《しさい》を言おう。
 池で、船の中へ鯉が飛込むと、弟子たちが手を拍《う》つ、立騒ぐ声が響いて、最初は女中が小船で来た。……島へ渡した細綱を手繰って、立ちながら操るのだが、馴《な》れたもので、あとを二押三押、屋形船が来ると、由を聞き、魚《うお》を視《み》て、「まあ、」と目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》ったきり、慌《あわただ》しく引返した。が、間《ま》もあらせず、今度は印半纏《しるしばんてん》を被《き》た若いものに船を操《と》らせて、亭主らしい年配《としごろ》な法体《ほったい》したのが漕《こ》ぎつけて、「これはこれは太夫様。」亭主も逸早《いちはや》くそれを知っていて、恭《うやうや》しく挨拶をした。浴衣の上だけれど、紋の着いた薄羽織を引《ひっ》かけていたが、さて、「改めて御祝儀を申述べます。目の下二尺三貫目は掛《かか》りましょう。」とて、……及び腰に覗《のぞ》いて魂消《たまげ》ている若衆《わかいしゅ》に目配せで頷《うなずか》せて、「かような大魚
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