へきたん》に謫《たく》されたのである。……トこの奇異なる珍客を迎うるか、不可思議の獲《え》ものに競うか、静《しずか》なる池の面《も》に、眠れる魚《うお》のごとく縦横に横《よこた》わった、樹の枝々の影は、尾鰭《おひれ》を跳ねて、幾千ともなく、一時《いちどき》に皆揺動いた。
これに悚然《ぞっ》とした状《さま》に、一度すぼめた袖を、はらはらと翼のごとく搏《たた》いたのは、紫玉が、可厭《いとわ》しき移香《うつりが》を払うとともに、高貴なる鸚鵡《おうむ》を思い切った、安からぬ胸の波動で、なお且つ飜々《はらはら》とふるいながら、衝《つ》と飛退《とびの》くように、滝の下行く桟道の橋に退《の》いた。
石の反橋《そりばし》である。巌《いわ》と石の、いずれにも累《かさな》れる牡丹《ぼたん》の花のごときを、左右に築き上げた、銘を石橋《しゃっきょう》と言う、反橋の石の真中《まんなか》に立って、吻《ほ》と一息した紫玉は、この時、すらりと、脊も心も高かった。
七
明眸《めいぼう》の左右に樹立《こだち》が分れて、一条《ひとすじ》の大道、炎天の下《もと》に展《ひら》けつつ、日盛《ひざかり》の町
前へ
次へ
全54ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング