ぐわ、舐《しゃぶ》るわ!鼻息がむッと掛《かか》る。堪《たま》らず袖を巻いて唇を蔽《おお》いながら、勢い釵とともに、やや白やかな手の伸びるのが、雪白《せっぱく》なる鵞鳥《がちょう》の七宝の瓔珞《ようらく》を掛けた風情なのを、無性髯《ぶしょうひげ》で、チュッパと啜込《すすりこ》むように、坊主は犬蹲《いぬつくばい》になって、頤《あご》でうけて、どろりと嘗《な》め込む。
と、紫玉の手には、ずぶずぶと響いて、腐れた瓜を突刺す気味合《きみあい》。
指環は緑紅の結晶したる玉のごとき虹《にじ》である。眩《まぶ》しかったろう。坊主は開いた目も閉じて、※[#「りっしんべん+(くさかんむり/あみがしら/冖/目)」、第4水準2−12−81]《ぼう》とした顔色《がんしょく》で、しっきりもなしに、だらだらと涎《よだれ》を垂らす。「ああ、手がだるい、まだ?」「いま一息。」――
不思議な光景《ようす》は、美しき女が、針の尖《さき》で怪しき魔を操る、舞台における、神秘なる場面にも見えた。茶店の娘とその父は、感に堪えた観客《かんかく》のごとく、呼吸《いき》を殺して固唾《かたず》を飲んだ。
……「ああ、お有難や、お
前へ
次へ
全54ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング