るしみ》はございますまいぞ、お情《なさけ》じゃ、禁厭《まじの》うて遣わされ。」で、禁厭とは別儀でない。――その紫玉が手にした白金《プラチナ》の釵を、歯のうろへ挿入《さしいれ》て欲しいのだと言う。
「太夫様お手ずから。……竜と蛞蝓《なめくじ》ほど違いましても、生《しょう》あるうちは私《わし》じゃとて、芸人の端くれ。太夫様の御光明《おひかり》に照らされますだけでも、この疚痛《いたみ》は忘られましょう。」と、はッはッと息を吐《つ》く。……
既に、何人《なんぴと》であるかを知られて、土に手をついて太夫様と言われたのでは、そのいわゆる禁厭の断り悪《にく》さは、金銭の無心をされたのと同じ事――但し手から手へ渡すも恐れる……落して釵を貸そうとすると、「ああ、いや、太夫様、お手ずから。……貴女様《あなたさま》の膚《はだ》の移香《うつりが》、脈の響《ひびき》をお釵から伝え受けたいのでござります。貴方様の御血脈《おけちみゃく》、それが禁厭になりますので、お手に釵の鳥をばお持ち遊ばされて、はい、はい、はい。」あん、と口を開いた中へ、紫玉は止《や》む事を得ず、手に持添えつつ、釵の脚を挿入れた。
喘《あえ》
前へ
次へ
全54ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング