ずまや》と称うるのがあって、八ツ橋を掛け、飛石を置いて、枝折戸《しおりど》を鎖《とざ》さぬのである。
 で、滝のある位置は、柳の茶屋からだと、もとの道へ小戻りする事になる。紫玉はあの、吹矢の径《みち》から公園へ入らないで、引返したので、……涼傘を投遣《なげや》りに翳《かざ》しながら、袖を柔かに、手首をやや硬くして、あすこで抜いた白金《プラチナ》の鸚鵡《おうむ》の釵《かんざし》、その翼をちょっと抓《つま》んで、きらりとぶら下げているのであるが。
 仔細《しさい》は希有《けう》な、……
 坊主が土下座して「お慈悲、お慈悲。」で、お願というのが金でも米でもない。施与《ほどこし》には違いなけれど、変な事には「お禁厭《まじない》をして遣わされい。虫歯が疚《うず》いて堪え難いでな。」と、成程左の頬がぷくりとうだばれたのを、堪難い状《さま》に掌《てのひら》で抱えて、首を引傾《ひっかたむ》けた同じ方の一眼が白くどろんとして潰《つぶ》れている。その目からも、ぶよぶよした唇からも、汚い液《しる》が垂れそうな塩梅《あんばい》。「お慈悲じゃ。」と更に拝んで、「手足に五寸釘を打たりょうとても、かくまでの苦悩《く
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