の坊主が、馬に、ひたと添い、紺碧《こんぺき》なる巌《いわお》の聳《そばだ》つ崕《がけ》を、翡翠《ひすい》の階子《はしご》を乗るように、貴女《きじょ》は馬上にひらりと飛ぶと、天か、地か、渺茫《びょうぼう》たる広野《ひろの》の中をタタタタと蹄《ひづめ》の音響《ひびき》。
蹄を流れて雲が漲《みなぎ》る。……
身を投じた紫玉の助かっていたのは、霊沢金水《れいたくこんすい》の、巌窟の奥である。うしろは五十万坪と称《とな》うる練兵場。
紫玉が、ただ沈んだ水底《みなそこ》と思ったのは、天地を静めて、車軸を流す豪雨であった。――
雨を得た市民が、白身に破法衣《やれごろも》した女優の芸の徳に対する新たなる渇仰《かつごう》の光景《ようす》が見せたい。
[#地から1字上げ]大正九(一九二〇)年一月
底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十巻」岩波書店
1941(昭和16)年5月20日第1刷発行
※疑問点の確認にあたっては、底本の親本を参照しました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:今井忠夫
2003年8月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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