ろ》を凌《しの》いでいた。
その人たちというのは、主に懶惰《らんだ》、放蕩《ほうとう》のため、世に見棄てられた医学生の落第なかまで、年輩も相応、女房持《にょうぼうもち》なども交《まじ》った。中には政治家の半端もあるし、実業家の下積、山師も居たし、真面目《まじめ》に巡査になろうかというのもあった。
そこで、宗吉が当時寝泊りをしていたのは、同じ明神坂の片側長屋の一軒で、ここには食うや食わずの医学生あがりの、松田と云うのが夫婦で居た。
その突当りの、柳の樹に、軒燈の掛った見晴《みはらし》のいい誰かの妾宅《しょうたく》の貸間に居た、露の垂れそうな綺麗なのが……ここに緋縮緬の女が似たと思う、そのお千さんである。
四
お千は、世を忍び、人目を憚《はばか》る女であった。宗吉が世話になる、渠等《かれら》なかまの、ほとんど首領とも言うべき、熊沢という、追《おっ》て大実業家となると聞いた、絵に描いた化地蔵《ばけじぞう》のような大漢《おおおとこ》が、そんじょその辺のを落籍《ひか》したとは表向《おもてむき》、得心させて、連出して、内証で囲っていたのであるから。
言うまでもなく商売人
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