手をつく。階子の上より、まず水色の衣《きぬ》の褄《つま》、裳《もすそ》を引く。すぐに蓑《みの》を被《かつ》ぎたる姿見ゆ。長《たけ》なす黒髪、片手に竹笠、半ば面《おもて》を蔽《おお》いたる、美しく気高き貴女《きじょ》、天守夫人、富姫。
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夫人 (その姿に舞い縋《すが》る蝶々の三つ二つを、蓑を開いて片袖に受く)出迎えかい、御苦労だね。(蝶に云う。)
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――お帰り遊ばせ、――お帰り遊ばせ――侍女等、口々に言迎う。――
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夫人 時々、ふいと気まかせに、野分《のわき》のような出歩行《である》きを、……
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ハタと竹笠を落す。女郎花、これを受け取る。貴女の面《おもて》、凄《すご》きばかり白く※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]長《ろうた》けたり。
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露も散らさぬお前たち、花の姿に気の毒だね。(下りかかりて壇に弱腰、廊下に裳《もすそ》。)
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[#ここか
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